コラム

イヌの食性・採食パターン・嗜好と歯科疾患と食事

■食 性

イヌは直接の祖先であるオオカミやタヌキなどと同様に雑食性です。
イヌの食性は歯式によく反映されおり、雑食性哺乳動物の典型とされているブタの歯式(永久歯)とよく似ています。

消化管構造では、大腸は著しく未発達ですが、盲腸はネコよりもよく発達しています。このことは犬はネコよりも繊維質が腸内細菌による発酵消化を受ける余地が大きいことを意味しています。すなわち植物性成分の摂取が多いことに対応しているということです。

■採食パターン

群捕食獣であるオオカミは共同で大型動物を狩し、群内の社会的順位に従い獲物を分け合って食べますが、毎日大型動物を捕まえることができるか限らないため、群捕食者であるオオカミは1回の食事で体重の1/5~1/4もの肉を食い溜めることができます。
同様にイヌも食事と食事の間隔が長くてもよい間欠捕食者です。
一般に夜間における採食の習性はなく、1日1食とか2食の採食パターンがむしろ自然です。

■嗜 好

1.味

  • 苦味:哺乳動物は一般に甘味を好み苦味を嫌います。
  • 甘味:イヌの舌にはショ糖に反応する味蕾の数が多いので甘味が大好きです。
  • 酸味:イヌは一般に酸味を好みます。
  • 塩味:肉には適量の塩分が含まれているため高塩分は好みません。

2.匂い

イヌの嗜好における臭覚の役割はヒトに比べてはるかに大きいものです。
匂いの成分の多くは脂溶性で脂肪と関連が深いため、脂肪は食餌の嗜好性に強く影響します。
イヌは特定の脂肪や脂肪酸に対する拒絶反応はありません。

3.タンパク質

イヌはタンパク質含量が同じ場合、穀類よりも肉を主体とした食餌を好みます。
肉の種類では好きな順位は牛肉、豚肉、羊肉、鶏肉、馬肉の順だといわれています。

4.温度

ネコは小動物を捕まえてその場で食べる新鮮肉食者であるのに対し、イヌは腐肉食者です。
新鮮肉食者であるか腐肉食者であるかは嗜好に大きく影響し、ネコは冷たいより体温程度の温かいものを好み、イヌは温かいものでも冷たいものでも喜んで食べます。

■歯周疾患(歯周病)

歯周疾患は一番多く見られる犬の生活習慣病です。
●発生要因:高年齢になるにしたがい発生率は高くなります。
●犬種:小型犬種は中、大型犬種に比べて歯周病の発生率が高い。

年代別 歯科チェックポイント

1. 幼犬(ここでは生後から7か月齢程度)

歯の交換時期(4~7か月齢)に歯科検診をお勧めします。
特に上下顎の咬み合わせや、小型犬では乳歯遺残による咬合異常が生じるケースがあります。
ミニチュア・ダックスフンド、トイ・プードル等の長頭種の下顎犬歯の場合に障害が大きい。

2. 若齢犬(ここでは7か月齢から2歳齢まで)

乳歯遺残や歯周疾患のチェック
この時期は、通常修復可能な歯周疾患であることが多いので、獣医師のホームケアの指導を仰ぎます。

3. 中齢犬(ここでは2歳から9歳まで)

歯周病の発生が多くなる年代なので、定期的に予防歯科処置をおこなってもらうこと。

4. 老齢犬(10歳齢以降)

見た目よりも重度の歯周病になっていることが多い。
骨髄炎、口腔内腫瘍など老齢期に多く見られます。

歯周病は治療よりも予防が大切です。子犬の時期からホームケアを続けることです。

■デンタルケア製品

歯ブラシによるブラッシング(歯磨き)が基本です。
他の方法は補助的なものです。
ガーゼ、手袋:歯ブラシの前段階として、また歯ブラシを受け入れない犬には有効です。
ブラッシングの際、歯磨き粉はなくても良いが、使用するなら動物用が最良。
ヒトの成人用に市販されているものは、通常界面活性剤(発泡剤)や研磨剤が入っているため使用できません。

ブラッシング:犬はブラッシングの習慣を受け入れやすい。

●ステップ1;口をあけずに唇をめくるか、さわるだけ。

ステップ1;口をあけずに唇をめくるか、さわるだけ。

●ステップ2;指に好物の味をつけて歯にさわる。

●ステップ3;歯ブラシやぬれたガーゼで少しずつさわる。

ステップ3;歯ブラシやぬれたガーゼで少しずつさわる。

●ステップ4;ブラッシングしやすい切歯や犬歯から行い、徐々に全体に行う。

●ステップ5;口をあけて、歯の裏側(舌側面)をブラッシングする。

■ブラッシングの頻度

毎食が好ましいが、実際には3日に一度でも維持可能。
しつけの一環として行うのが望ましく、できれば毎日少しずつ行う。

■食事

食生活

  • 食べ方:歯周疾患は食生活(食べ方、おやつ、食事内容)に密接に関係しています。
        決まった時間に主食をしっかり与え、間食は少なめに、全体の栄養バランスを考えて与える。
  • 噛む:よく噛むことで唾液分泌が促進され、口腔内の汚れが少なくなり歯周病の予防になります。
       噛まずに飲み込むような食べ方は歯垢等が食餌により研磨されないため不利です。
  • 食事の性状:食物の形状が大きくて硬いもしくは噛みきりにくいなど、食べにくい食事の方がよく噛むことができる。
          柔らかい食事は、歯の表面や歯肉溝に付着し歯垢の原因になりやすい。
          硬いほうが食べにくいため唾液分泌を促進しる。従ってドライフードは缶詰に比べ歯垢はつきにくい。

歯周病は自然治癒ができません。放っておくと口の中だけでなく、全身に影響が及ぶ怖い病気です。
ホームデンタルケアなしに良い管理はできません。

(参考資料:日本ペット栄養学会)