コラム

イヌの肥満

人類の長い歴史は飢餓との闘いであったとされています。
我が国においても200回もの飢饉を乗り越えてくることができたのは、我々の身体が食べた物を脂肪として蓄積することができたからです。
しかしこの脂肪蓄積というメカニズムが、現代社会では負の要因となっていることはご周知のことです。
従来、日本で飼育されていたイヌはご飯に味噌汁といった簡便なもので、栄養の偏りからイヌの寿命は短いものでした。
経済成長に伴い人の食生活が豊かになると、ドッグフードを与える家庭が増え、イヌの栄養状態は著しく改善され、加えて医学と薬学の進歩により寿命もはるかに延びました。
嗜好性が高く栄養も行き届き、また庭先で飼育されていたイヌたちが室内で飼育されるという生活様式の変化により運動量が減少したことで、肥満のイヌが多く見られるようになりました。

 

■肥満の種類

肥満には「単純性肥満」と「症候性肥満」の2つに分けられますが、ここでは「単純性肥満」について述べます。

単純性肥満

単純性肥満は「細胞増殖性肥満」と「細胞肥大性肥満」に分類されます。
・細胞増殖性肥満は成長期から性成熟までの間に多く、脂肪細胞のサイズが大きくなるのと同時に脂肪細胞の数も増える肥満です。
・細胞肥大性肥満は成熟期以降に多く見られ、脂肪細胞のサイズのみが大きくなる肥満です。

ここで人を例にとって詳しく説明します。 私たち人間は一生の間を通して脂肪細胞が増える時期が何度かあります。

  1. お母さんの妊娠末期
    母体共に太りやすい時期です。
  2. 生まれてから約1年間
    乳児の時期で、この頃摂取するエネルギーを過剰にすると脂肪細胞を増やしてしまいます。
    しかしこの時期太っていたからといって必ずしも肥満児になるというわけではありません。
    ただ“太る要因”をここで持ってしまったということです。
  3. 子どもから大人に変わっていく思春期の頃
    この頃に太っていた人は、大人になってもそのまま肥満傾向になりやすいといわれています。

さらに、中年以降になって運動・活動不足・更年期と特にこの時期はちょっとでも油断すると脂肪細胞が増えてしまいます。
脂肪は、脂肪細胞の中の“脂肪球”といわれる油滴の中に蓄えられます。
一度増えてしまった脂肪細胞はその後数が減ることはなく、蓄積される脂肪の量によって大きさが変化するだけです。
ダイエットの目的は、脂肪細胞の中の脂肪球に蓄えられている脂肪の量を減らしていくことです。
ダイエットにより脂肪が燃焼されると脂肪細胞のサイズはしぼんでいきますが、数が減っていくことはありません。

肥満の要因

  1. 過食
  2. ストレス
  3. 摂食パターン
    オオカミを祖先にもつイヌは、群れで捕食を行い一つの獲物を群れの間で共有するため、いち早く食べようと一気に飲み込んでしまいます。
    人間で確認されているように、早食いは肥満の原因となりますので、たとえ早く食べ切っても、必要量が与えられているのであればそれ以上与える必要はありません。
  4. 遺伝
  5. 運動不足:現在推奨されているイヌの適当な運動量は、一日2回、各20分間中断せずに歩かせることとされています。
  6. 年齢:イヌの肥満発症と年齢の間には相関が認められ2歳以下ではあまり肥満は認められませんが、その後肥満の割合は増加し6~8歳でピークとなります。
    若歳期に比して7歳のイヌでは一日に必要とするネレルギー量は20%ほど減少することが報告されています。
  7. 性差:人において女性のほうが体脂肪率が高いことが知られているように、動物においても雄よりも雌のほうが体脂肪率が高いと考えられています。
    懐妊により雌イヌの肥満発症率は2倍に増加し、雄イヌでも避妊手術により同様な傾向が起こります。
    これは食欲を抑制する働きのあるエストロゲンという女性ホルモンやアンドロゲインの消失による代謝率の減少によるためです。

肥満が原因となる疾病

必ずしも重い病気にかかるというわけではありませんが、肥満を出発点として疾病や異常が起こりやすいということは事実です。

  1. 糖尿病:肥満は糖尿病発症の重要な要因です。できるだけ早い体重の調整が必要です。
  2. 高脂血症
  3. 高血圧
  4. 心臓病
  5. 脂肪肝
  6. 癌:従来、肥満との関連性が薄いとみられていた癌ですが、その種類によっては肥満が発症因子として関与することが明らかになってきました。
    肥満との関連性が指摘されている癌は、大腸癌・子宮癌・乳癌です。
  7. 運動器系疾患:骨格の変形関節炎を引き起こします。

(参考資料:日本ペット栄養学会)